大隅 久
2021年度より、日本時計学会代表理事を拝命いたしました。2017〜2018年度に引き続き、今回は2度目の代表理事就任となります。今回は新型コロナウィルス感染症の影響により、前回とは全く違った状況での就任となりますが、理事・運営委員の皆様と力を合わせてこの難局を乗り越えていく所存です。ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
さて、近年の世界の時計産業は、スマートフォン、スマートウォッチ等といった情報通信機器に大きな影響を受けています。一方、その中で機械式高級時計の売り上げは伸びており、コロナ禍にあってもその流れは続いています。日本時計学会では2018年に、「スマートウォッチのこれから・腕時計のこれから」というテーマの座談会を行いました。その中で腕時計の存在意義について議論した際に、スマートウォッチは買い替え製品であるが、腕時計は買い増し製品であるとの話が出ました。機能という点では遥かに拡張性のあるスマートウォッチに対して、腕時計は基本的に時刻を示すのみで、センサを搭載したものでも機能は限られます。しかし、様々なコンセプトの下に生み出された腕時計は、古くなっても捨てられずに手元に置いておかれ、TPOに合わせて使い続けられます。これからの日本ではモノづくりよりコトづくりが大切であると言われますが、まさにモノづくりの技術を使って創り上げられたコトこそが、腕時計の存在意義であると言えます。時計メーカー各社がどんなコトづくりをしていくのか、その中で学会はどのような役割を果たすことができるのか、議論を続けていきたいと思います。
最後になりますが、日本時計学会は日本で唯一の時計技術に特化した学術団体で、これまで毎年9月にマイクロメカトロニクス学術講演会を開催し、時計に関する研究や技術開発成果の発表、製品展示等を行ってきました。また、多くの時計エンジニアが一堂に会する貴重な交流の場となってきました。ところが、2020年度はコロナ禍の影響で全てのイベントが中止となり、人々の集う場がなくなってしまったことは大きな痛手です。しかし、最近は多くの学会でオンラインでの学術講演会を開催しており、国際会議等も自宅から簡単に参加できるというメリットも生まれています。日本時計学会も、人の集まる集会事業に代わる方法を速やかに検討し、2021年度は会員にとって魅力的な新たな取り組みを始めたいと思います。皆様の積極的なご参加を、心よりお願い申し上げます。